FAXマガジン
人材確保に一役買う本とは?
米国産輸入牛肉、ライブドア、耐震偽装、年末年始に日本を席巻したこれらの事件は、その頭文字をとって「政権与党を揺るがすBLT問題」と名付けられ、面白おかしくマスコミに取り上げられている。
しかし、「ベーコンレタスサンド(BLT)みたいだ」などと笑ってばかりいられない。今まで疑う必要のなかったものを、疑わざるを得ない時代となったことを象徴しているからだ。疑うことが前提の人間関係ほどつらいものはない。
今回は、そんな時代の最中、本を通じて素晴らしい人間関係を形成し、人の価値観を一変させたというお話。
皆さんは「訪問歯科」という職業をご存知でしょうか? どんな田舎にでも数件は歯科医があるので、リクライニング式の診察台、明るい照明、吸引機、自動吸水のうがい設備、切削器具等々、高価な設備で囲まれた一般的な歯科医の空間を思い浮かべることは容易でしょう。ですが訪問歯科となると…。
昨年5月に小社から発行された歯科医師の深井眞樹氏と、経営コンサルタントの小林一博氏の共著による『理想の訪問歯科を求めて』という本に、その詳しい内容が解説されています。世間にあまり知られていない訪問歯科という職業を、もっと世に広めたいという目的からこの企画は立ち上がりました。が、深井氏が診療を行いながら本を書くことが難しいため、同氏が理事長を務める医療法人の理事でもある、小林氏が執筆することになったのです。書きたい企画さえあれば本にすることができるという手本といえます。
で、肝心な「訪問歯科」ですが、一言でいうと歯医者に訪れることができない人のために、医師が出向く歯科の訪問診療サービスのことです。要介護状態の高齢者は自らの意志では動けませんし、全ての歯科医にバリアフリーの設備が整っているわけでもありません。
高齢者施設に至っては、人手が少ないことを理由に治療はおろか口腔ケアすらも行わず、まともに噛めなくなると流動食を与えてごまかす施設すらあるそうです。そんな状態の高齢者を相手に、先程頭に思い浮かべてもらったような、最新の設備のない中で治療を行っているのです。決して清潔とはいえません。しかも通常の歯科医師に比べてハードなうえに、収入も少ないため、従事するスタッフのモチベーションが低く、かつては人材の確保が困難となっていたようです。
深井氏は本を作るにあたり、治療したことで流動食では通常の食事が食べられるようになり、涙を流しながら患者に感謝されたというエピソードや、歯科診療が患者の健康状態を大きく左右する事実などに触れました。そして、発刊後にはスタッフ全員にこの本を読ませたのです。するとスタッフの間にプライドが芽生え、モチベーションが生まれ、結果として人材が定着するようになったのだそうです。
この本は、訪問歯科という職業の普及という目的以外に、スタッフの定着率を高めるという思わぬ波及効果を生んだのです。本には人間の価値観を一変させ、人間関係を変えてしまう力があるのですね。
ちなみに、この本でゴーストライターとして活躍された小林氏はこれに味をしめ、次なる訪問サービスの本を企画しており、近々、小社より発刊される予定となっています。