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FAXマガジン

 
第18号

「値決めは、経営」の定価設定

関西では六十年ぶりとなる定席の寄席「天満天神繁昌亭」が、九月十五日にオープンした。

そのオープンに合わせて、『上方落語家名鑑 ぷらす上方噺』 を発刊。繁昌亭の勢いに乗って、さっそく重版出来!今回は、その経緯と定価設定のお話です。

天満天神繁昌亭のオープンに合わせて、上方落語家の名鑑をつくりたいと、岩本靖夫席亭から話しを頂いたのが、今春。江戸落語家メインの名鑑はあるが、上方落語家だけの名鑑はまだないとのこと。名鑑だけで売れるのかという不安もあり、名鑑にプラスα、上方の噺を入れられないか、上方落語の戦後六十年の歴史を盛り込められないかと企画を詰めていった。席亭が気を遣われたのは、一門と落語家の掲載順。

著者は演芸ジャーナリストのやまだりよこさん。開口一番十年もつ名鑑をつくりたい。十年という言葉に、三年くらいもてばと思っていた私は、褌を締め直した。やまださんは、約二百人いる落語家にほとんど会って取材された。お陰で締め切りは大幅に遅れたが、落語家の得意のネタ、目指すところ、人となりが書かれた労作となった。ベースにやまださんの暖かい眼差しを感じてもらえると思う。

また、桂春団治師匠と笑福亭鶴瓶師匠の対談も企画。春団治師匠の芸能六十年と上方落語戦後六十年をオーバーラップさせられないかという意図。本には出来なかった「カット、カット」の艶談が面白かった。最後に上方落語噺厳選百八十本、上方落語三百年略史、系図も入れた。欲張り盛りだくさん、「これ1冊で上方落語の通になれる」本を目指した。

さて、もめたのは装丁と定価設定。装丁案によって、売れる部数が変わるのではないかという議論のもと、最初の千五百円+税設定を、ゲラ段階では千七百円税込に変更。最終的に通好みの装丁なので、税込千八百円ということになった。東京の落語ブームはあるとは言え、落語ファンではない一般の人は買わないのではないか、四六判ではなくA5判なのでもっと高くともいい。名鑑なので高くても大丈夫。著者からは落語の本は千六百円までが多い、高すぎるのではという意見。

価格設定は市場価格をどう読むか。また、売れ部数×定価の売上と仕入れの関係、この収支シミュレーションをどう予測するかによって決定する。決して安ければイイというモノではない。最大の利益がでる価格設定が正解なので、「値決めは経営」と言われる由縁だ。

初版は四千部。大阪の生國魂神社で、九月三日・四日に開催された彦八まつりで先行販売を実施。彦八まつりは上方落語家の祭りみたいなモノ。奉納落語のある会館で本の先行販売をさせて頂き、四百二十冊が飛ぶように売れた。返ってくるアンケート項目の結果、定価は「普通」という回答だった。正解である。

余談だが、この原稿を書いている時に、日本図書館協会からの選定図書に選ばれた通知が届いた。思わずそろばんを叩きたくなるが、結局、売れる本をどうつくるかではなく、良い本をどうつくるかが最も大事な事なのだと教えてくれた1冊だった。