FAXマガジン
有名人の肖像権
常に世間に明るい話題をふりまき続けている、北海道日本ハムファイターズの新庄剛志選手。選手と呼べるのも今年限りとなりました。開幕直後の引退発表には、「新庄がまたやった!」などと感嘆の声をあげた人も多かったことでしょう。
そんな話題の尽きない新庄選手を、出版業界も見逃すはずがありません。これまでに新庄選手を取り上げた書籍は20冊弱にものぼります。7月に東邦出版から発刊された「新庄の信条」もその一つです。予告ホームランをする新庄選手を背後からとらえた写真が印象的な一冊です。
ただこの1冊は他の書籍とは少し違っていました。
引退宣言から3カ月後にあたる今年7月に「新庄の信条」(東邦出版)という書籍が発刊されました。バックスタンドに向かって高々とバットを掲げ、予告ホームランをする新庄選手をとらえた写真を使った装丁は大変力強く、彼のスター性がうかがえ、ファンならずとも手に取りたくなる一冊です。
ところが新庄選手の所属球団と所属事務所が、この写真を無断で使用しているなどとして、肖像権の侵害を理由に出版の差し止めを求める準備をしているというのです。
なぜ新庄選手ではなく球団が?と疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。球界では、これまで選手会、プロ野球機構、球団との間で、肖像権の使用を認める明確な役割分担がなかったために、主に週刊誌などで選手の肖像が許可なく利用されてきたという経緯がありました。ところがちょうど今年、野球機構側と選手会側との訴訟で、選手の肖像権は球団にあるという判決が下ったばかりだったのです。つまりそれは、遠からず球団が選手の肖像を利用する権利を得たともいえるのです。
一方、版元はその写真の使用権をスポーツ紙から購入しており、差し止め請求に応えるつもりはないと、一歩も引かない構えを見せているという。
問題はやはり、写真の二次使用に版元サイドが一切の使用許可を申請しなかったこと、そしてそれが肖像権の侵害にあたるかどうかにあるといえます。
確かに、赤裸々なプライベート写真が暴かれたわけではなく、多くの人が目にしている、試合中の新庄選手を象徴する姿です。報道写真としてすでに公表されているわけですから、カメラマンの著作権さえクリアしていれば肖像権の人格的侵害はない、と判断したくなるのは理解できなくもありません。
それに、マスコミを上手に利用し、今の人気を築きあげてきた新庄選手なだけに、肖像を無断で使用されても仕方がない有名人であるとの見解があるのも事実です。
では何がまずかったのか。版元サイドに欠けていたとすれば、有名人の肖像には商業的価値があるということでしょう。ただでさえ人気者の新庄選手です。その彼をまさに象徴する素晴らしい写真なわけですから、たった1枚であっても、肖像権を持つ球団が、そこに商業的価値を見いだすのは当然のことといえるでしょう。
書籍に写真を掲載する場合には慎重を期する必要があるという、良い教訓になったケースといえるのではないでしょうか。