NEWS-e
「心に残る人、心に残るこの本」
出版企画 販売担当の清水克美です。
明けましておめでとうございます。
出版文化社NEWS-eを今年もよろしくお願いいたします。本年も皆様のお役に立つような情報発信をしてゆく所存です。
さて、少し前の話題となりますが、昨年11月に「兎の眼」「太陽の子」の作者灰谷健次郎氏が亡くなりました。教育界では賛否の意見が分かれる作品ではありますが、当時学校周りの仕事をしていた私が、出版業界に身を置くことになってすぐに出会い、児童文学というものの奥深さを圧倒的な力感を持って感じさせてくれた思い出深い本です。
かつてはどちらも新潮文庫に収録されていましたが、新潮社の写真週刊誌が少年事件の未成年犯罪者の写真を掲載したことに抗議をして版権を引き上げてしまったことは、ご記憶の方もいらっしゃるでしょう。
灰谷氏は17年の小学校教員生活を経て、沖縄、アジアを放浪し作家活動に入りました。'73年に「兎の眼」、'77年に「太陽の子」を発表。児童文学界に名を馳せることになります。
「兎の眼」は大阪の小学校を舞台に新米の女性教師が荒廃する教育現場に翻弄され、泣きながら成長してゆく様を書いた作品で、主役の女性教師に壇ふみを起用し映画化されています。
また「太陽の子」は、神戸の『てだのふあ(沖縄の言葉で「太陽の子」という意味)』という小さな沖縄料理店を舞台に、主人公の小学6年生の女の子がお父さんの心の病の原因を探る物語です。太平洋戦争の沖縄の激戦を経験したおじいさんから、戦争の悲惨さ、人間の本当の優しさの意味を聞かされる中で、お父さんの病の原因がその戦争にあることに気付いていきます。戦争が人の心に残した影を考えさせる作品です。
この作品も'80年に大空真弓、大竹しのぶ、河原崎長一郎をキャストに映画化されています。
「美しい国、日本。」もよいのですが、真の人間性、生き方の本質を高めるのは、教育の本当の姿を見直すこと、また、戦争の本当の恐ろしさを訴え続けなければいけないというところにもあるのではないでしょうか。
上記の作品や良い本には改めて物の本質を考えさせてくれるものがあります。今年もより多くの良書を読んでみたいという気持ちと、良い書籍を出版し、普及するという出版人の基本に立ち返る意欲をもちたいと年頭に誓いました。